2月15日―貴史と推理―
「で、家に帰って開けてみたら」
「ただのチョコレートだった」
「面白いな」
親友の貴史は、僕の話を聞きながらポテトチップスを食べている。
「俺の想定では、ここにはたくさんのチョコがあって、食べ切れないからお前にもやるよ、って言うつもりだったのだが」
貴史は誰からもチョコを貰えなかった。貴史はクラス内で僕と同じグループに所属していて、そこではリーダー的な存在であるが、話が少しくどいのと、髪型が少しダサいのと、運動神経があまり良くないのと、仕掛ける悪戯が少ししつこいのと、まあそんな感じで、あまり女の子からの人気は得ていない。
去年は僕も貴史もチョコを貰えなかった。放課後に2人で僕の部屋で、来年に向けての作戦会議と言いつつ、クラスメイトの不平不満を言い合っていたのだった。
しかし今年、僕は貰った。千華さんから、チョコレートを。水餃子ではなく。
「なんで水餃子って言って渡したんだろう」
「俺が思うに、罰ゲームか何かなんじゃないか」
「どういうことだよ」
「まあ俺の推理を聞けよ」
最近推理小説に傾倒している貴史は、自分の考えを言うとき絶対に「推理」という言葉を使う。
「千華の仲の良いグループか何かで、賭けをしたんだよ」
「女の子がそんなことするかなあ」
「推理は最後まで聞け。お前を犯人にするぞ」
「なんでだよ」
「話を聞かない奴はムカつくからだ」
「感情論で犯人を決めるなよ」
貴史は僕の家に来た時から少し苛立っている。僕がチョコを貰ったことが気に入らないのかもしれない。
「女の子グループ何人かで賭けをした。そして賭けに負けたのが千華で、ちょうどバレンタインが近かったから、冴えない男子へのドッキリの仕掛け人になるという罰を受けたんだ」
「そんな誰にもメリットのない罰ゲームある?」
「俺らだってデメリットだらけの罰をよく受けたろ」
確かにそうだ。例えば校庭の中心で好きな女の子の名前を叫ぶ。人気の無い女の子のスカートをめくる。女の子の机の中に担任の顔の切り抜きをたくさん入れる。僕らは損得勘定よりも、面白いか面白くないかを考えて、面白いと思ったことを実行することがある。面白い、というだけでデメリットは気にならなくなるくらいに。
「でもこれ面白い?」
「2段階に分けて驚くから、レベルは高いな。えっ!?水餃子!?えっ?!チョコレート?!ってなる」
「女の子ってこういうことを楽しんでやるようには思えないけど」
「さっきからいちいち俺の推理にケチつけてくるなあ」
「なんだよ」
「お前の家の洗濯機にティッシュ入れてやるぞ」
「あれすごく大変だってお母さんが言ってたからやめて」
「テスト開始30分前に問題用紙と解答用紙を配布するぞ」
「配布されてからテスト開始まですること無さすぎて困るよあの時間」
「お前を氣志團のセンターに任命する」
「綾小路翔以外の適役が見当たらないよ」
「お前が水道水を飲みたいと思ったタイミングで的確に蛇口に石鹸を詰めるぞ」
「衛生上怖いなと思いつつ蛇口上向きにして水飲んでるんだから」
「プールの消毒水のところに50分浸かってろ。肩までな」
「あれ5秒入るのも辛いのにどんな拷問だよ」
「晴れてるのに廊下で筋トレしろ」
「部活が雨で中止の時だけでいいんだよ。水泳部とか冬季毎日筋トレしてるけど正気かあれ」
「帰りの会でガチな反省点を述べろ」
「誰も聞いてないよあの帰りたい時間。帰りの会ってまずなんなんだよ」
「全校生徒がいる前で視力検査しよう」
「目が悪いから恥ずかしいんだよ、一番上も見えないから地獄だよ」
「とりあえず今日からお前のあだ名は水餃子な」
「絶対嫌だ!ってかお前どれだけ罰を思い付くんだよ!」
「まあ今回の水餃子の件も俺が仕組んだんだけどな」
「お前かよ!どうしてだよ」
「そりゃあ、面白いからだろ」
(2月16日に続く)