【10代・20代向け】旧統一教会とは何か?について考える
安倍晋三元首相銃撃事件で、容疑者の供述によりクローズアップされた宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」。旧統一教会については、1990年代前半に歌手の桜田淳子氏が信者であると明かし話題になり、霊感商法や合同結婚式が社会問題となったため、40代以上の方であれば名前を知らない人はほとんどいない、と言われています。
しかし、その時代に生まれていなかった今の10代、20代は、「そもそも統一教会が何なのか知らない」という人々も多くいます。長年、ジャーナリストとしてオウム真理教などの問題を取材してきた有田芳生氏は、AbemaTVの番組の中で、統一教会をメディアが扱わなくなったことを「空白の30年」と称し、この問題に言及しました。
「有名歌手やスポーツ選手が合同結婚式に参加した1992年ごろ、各局は一大キャンペーン報道を張った。ワイドショーも含め朝から晩まで霊感商法などの旧統一教会の問題を取り上げた。しかしそれ以降、“空白の30年”が生じてしまった。1995年に地下鉄サリン事件が起きてからは、カルトといえばオウム真理教、ということになっていった。
今日は他のテレビ局からも取材を受けたが、“あの時に何歳だった?”と尋ねると、“3歳”と言われた。当時のことを知っているはずがない。他にも色々と取材が来るが、やっぱり一から説明しなきゃダメで、“もうちょっと勉強してくれよ”と思ってしまう。しかしテレビ局で報道をやっている人たちでさえ知らなかったと言うぐらいだから、世間一般で知っている若い人はもっと少ないと思う」
2022年7月15日放送 AbemaTV
「信者が無償で選挙の手伝い」旧統一教会と政治のつながりを有田芳生と考える
この記事は、自身も20代である筆者が、同世代に向けて「統一教会とは何か?」を学び、考えてもらうきっかけ作りとして、様々な文献や記事などを引用・紹介します。その上で、現在報じられている、旧統一教会と政治家や政党との関係性、そして我々有権者が今後心がけるべきことについても考えていきたいと思います。
なお、先に断っておきますが、今回の事件において容疑者の行為を正当化することは出来ませんし、凶悪な犯行は決して許されるものではありません。
旧統一教会の問題点
「高い壷を買わされる」の代名詞、旧統一教会
「怪しい団体に高い壷を買わされる」のような詐欺話は聞いたことがあると思いますし、誰かが冗談で言っているのを聞いたことがあるかもしれません。
手法としては、霊能者を装った売り手が、不幸を「先祖のたたりがある」「悪魔が憑りついている」などと因縁話で説明し、「この商品を買えば祖先のたたりは消滅する」「このままだともっと悪いことが起きる」と言って、法外な値段で印鑑や壷などの商品を売りつけるというやり方です。
このような悪徳商法は「霊感商法」と呼ばれています。1980~1990年代において、霊感商法は国会・メディアを中心に社会問題として取り上げられていて、その中心として詐欺被害を行っていたのが旧統一教会です。その頃の強烈な印象から、今でも「高い壷を買わされる」という話が残り、冗談として消費されるに至っているのだと思われます。現在では旧統一教会の名前を報じられることは減ったものの、霊感商法は今も続いています。
借金をしてでも献金させ、多額の献金で崩壊した家庭も
霊感商法に加え、旧統一教会が大きく問題視される要因が「献金」です。ここでいう献金とは、教団側に資金を送ることです。先の事件で逮捕された容疑者の母親は約1億円を旧統一教会に献金し、破産してしまったことが報じられています。
信者が霊感商法によって得た儲けを献金する場合もあれば、信者自らの資産を献金するケースもあります。容疑者の母親の場合は保険金や不動産が献金の主な原資だったと報じられています。献金は月収の10分の1を寄付する「十一条献金」を中心として様々な種類があり、何かしらの名目を付けて献金を迫られ(当然献金をするように仕向けられ)、場合によっては借金をしてでも献金を行わせていたことが元信者の証言から明らかになっています。
全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、霊感商法や献金などによる1987年~2021年までの被害総額は把握しているだけでも1237億円以上で、2021年も3億円以上の被害が起きています。
大学内での活動「原理研究会(CARP)」」
加えて、若者に身近なのが、原理研究会(CARP)、通称原理研と呼ばれる全国の大学内で活動する団体です。原理研究会は旧統一教会の教義に基づいて活動をしている、旧統一教会の関連団体ですが、一見すると無害そうな大学内のサークルを装い、ボランティア活動やアンケート活動を主軸としつつ、旧統一教会への勧誘や学生新聞の発行、悪徳商法や募金活動などを行っています。近年はSDGsをテーマに環境保護団体に偽装しているケースも多く見られます。
参考:東北大学の原理研究会である「東北大CARP」の公式HPには、「SDGsを中心に社会や世界が抱える課題について大学生として私たちにできることがないか日々研究し、解決策を模索しています」という文言があります。
原理研究会はあたかも学校公式のような学生新聞を発行していますが、これについては、京都大学新聞による文章で、「『京大新聞』と『京大学生新聞』は違う団体」と注意喚起されています。全国の大学に原理研究会が発刊する学生新聞があります。
また、原理研究会では霊感商法による高額販売はあまり用いられず、「障がい者の作った商品と偽って商品を買ってもらう」「家族の不幸を話して商品を買ってもらう」など、他者からの同情を引き出して(欺いて)お金を稼ぐ、というのが主な手法となっています。そうして稼いだお金はもちろんすべて献金されます。
訪問販売は『万物復帰』という、物を売り、サタンからお金を取り戻す行為で、霊感商法も『万物復帰』の一環と言われていたそうです。
— 羽鳥慎一モーニングショー (@morningshow_tv) 2022年7月15日
さらに、夜はホーム(宿舎)で反省会。仕送りは全て献金していたので、所持金は1000円程度。会計係から小遣いをもらう生活だったということです。 pic.twitter.com/jGrhq8cSfF
「万物復帰」という教義と「堕落論」
上記で出てくる「万物復帰」というのは旧統一教会の教義です。サタン世界(一般社会のこと)に奪われた、本来神のものであった万物を取り返し、神に捧げなければならないという教えです。万物と言っていますが、シンプルに言えばお金のことで、教団に献金することを正当化した教えとなっています。
ジャーナリストで、旧統一教会の元信者である多田文明氏はMBSの『よんチャンTV』で、旧統一教会の教義である「万物復帰」「堕落論」についてこう語っています。
「旧統一教会の教え自体が献金しなければならないという教えになっている。極端な話で言えば『私たちは全員堕落人間だ。堕落人間というのは万物って物よりも下の立場だ』と教えられる。なので、お金を神に捧げて、それで初めて神の子になれる『万物復帰』という教えがある。財産を全て捧げないと、神の子にはなれないと教えを信じてしまい、生活が困窮したとしても献金が必要だと思えば出さざるを得ない」
元信者が語る「旧統一教会」の内側…献金ノルマ?勧誘方法は?友人に誘われバレーボール大会に行ったら『周りは全員信者だった』 | TBS NEWS DIG (1ページ)
1990年代に社会問題となった合同結婚式
旧統一教会が1990年代に問題視されたものの一つに、「合同結婚式」があります。旧統一教会内では「祝福」と呼ばれる行事です。1992年には歌手の桜田淳子氏や元新体操選手の山崎浩子氏(現在は脱会済み)も参加した大規模な合同結婚式がソウルオリンピックスタジアムで開催されました。この合同結婚式には3万組の夫婦が参加したと言われています。
「合同結婚式」の考え方も、旧統一教会の「堕落論」の考え方を色濃く反映しています。人類の始祖であるアダムとエバが、蛇の姿をしたサタンと性交したことにより、全人類に原罪が生まれたとしており、その原罪を神の下での祝福によって解消するために、合同結婚式が行われる、というものです。
以前は教祖・文鮮明氏が写真を見て結婚相手を選び、当人たちは結婚式直前に相手を知らされるシステムでした。信徒はどんな相手であっても文鮮明氏が選んでくれた最高の伴侶として結婚し、このような家庭から「無原罪の子」が生まれるとされます。文鮮明夫妻を真の親とする信者の家庭によって神の王国は建設され、地上天国が実現されるというのです。
原罪の解消のためには「献金」も必要ですから、合同結婚式に参加するために百数万円の献金を行うことになります。合同結婚式もまた、旧統一教会の大きな資金源になっています。
統一教会3万人「合同結婚式」に潜入したら…山上徹也の母親が1億円を寄付した教団の「内部マニュアル」「参加者への注意事項」【写真多数】(現代ビジネス編集部) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
見ず知らずの人と強制的に結婚させられること、多額の献金が義務付けられていること、違法な入籍・海外滞在の原因になることなどから、全国霊感商法対策弁護士連絡会から合同結婚式について抗議文が出されていました。
なお、文鮮明氏の死去後は、マッチングサイトを用いたり、先に相手と会って本人同士で話し合いを行うことができるようになるなど、少しずつ制度が変わってきています。以前は日本人女性と韓国人男性という組み合わせが目立ちましたが、日本人同士の結婚も増えているようです。しかし、未だに合同結婚式に多くの日本人が参加していることは変わりありません。
旧統一教会の国際合同結婚式に潜入! 日本人カップル数は1400人で過去最大に | 日刊SPA!
旧統一教会で今も開かれる「合同結婚式」 進化した衝撃の〝マッチング方式〟とは | 東スポの社会に関するニュースを掲載
祝福結婚Q&A|祝福結婚への招待|結婚と家庭|世界平和統一家庭連合 | 世界平和統一家庭連合 公式サイト
旧統一教会の運営資金の約7割は日本からの献金
そんな旧統一教会ですが、実は日本以外の国では霊感商法をあまり行っていません。旧統一教会の運営資金の半分以上(約7割とも言われる)は日本で得られたもので、日本は「金のなる木」として扱われ、その資金は旧統一教会のアメリカでの布教活動や保守系日刊紙の運営、系列企業や団体の運転資金などに使われています。
ではなぜ日本の信者がこれほどまでに献金をしてしまうのでしょうか。宗教社会学を研究する北海道大学大学院の櫻井義秀教授は、AbemaTVの番組の中でこう説明しています。
「霊感商法、そして訴訟関係は日本を中心として起きていて、アメリカや韓国では起きていない。これは日本の旧統一教会だけが、いわば違法な形で資金調達をし、それを韓国の本部に送り届けるというミッションがあるからだ。旧約聖書にアダムとエバが禁断の木の実を食べたという話が出てくるが、エバが先に食べ、そしてアダムに渡したとされている。これが旧統一教会の教義では、アダム=韓国で、エバ=日本だということになっている。つまり“エバ国”である日本の支部が資金調達をし、“アダム国”である韓国の本部に捧げる。そして韓国がアメリカなど各国の支部に配分し、世界的な布教戦略を展開してきたということだ」
日本は「エバ国」とされる
旧統一教会の日本での活動方針を知るキーワードとして「エバ国」があります。旧約聖書のアダムとイブの話が関係しており、「エバ」とはイブのギリシャ語読みです。
植民地支配した日本は韓国に対して贖罪の義務があり、「エバ国」として貢がねばならない。というものが「エバ国」の考え方です。これが旧統一教会が日本で行う資金調達を正当化する言説であると言われています。
旧統一教会は、「世界基督教統一神霊協会」という名称で1954年に韓国で創設された新興宗教です。日本には戦後に伝わり、1964年に法人格の認証を受けています。基督教とある通り、キリスト教系の新宗教ですが、正統派からは異端扱いされています。
設立者は文鮮明(ムン・ソンミョン)氏で、1920年に現在の朝鮮民主主義人民共和国にあたる平安北道で生まれました。当時の朝鮮半島は日本統治下にありました。
旧統一教会の被害は現在も続いている
注意しなければならないのは、このような霊感商法や献金は過去の話ではなく、現在も続いているということです。旧統一協会側が7月11日に開いた記者会見では「2009年以降はコンプライアンス(法令遵守)を徹底しており、問題は起きていない」と説明していましたが、全国霊感商法対策弁護士連絡会が「被害は今も発生しており、コンプライアンスを徹底しているのは明らかに嘘である」と最近の裁判事例を紹介して否定すると、「それまでのようなトラブルがゼロになったという意味で言ったものではありません」と、会見の内容を一部訂正する声明文を出しました。
旧統一教会、11日会見での「トラブルなし」発言は「言葉不足で誤解を招いた」と声明発表 - 社会 : 日刊スポーツ
2009年とは、旧統一教会の信者による霊感商法で初めて懲役刑の判決が出た年です。1980年代から霊感商法は社会問題として度々取り上げられてきましたが、1994年に初めて旧統一教会の関与と賠償責任を認める判決が福岡地裁で出ました。その後も民事訴訟・刑事訴訟が盛んに行われ、2009年の有罪判決を受け、当時の日本統一教会の会長が「印鑑や風水など霊が絡む物品販売の禁止、先祖の因縁ないし先祖開放等を理由にした献金の禁止、ビデオセンターに勧誘する場合は統一教会の名前を明示すること、霊能力に長けているといわれる人物をして、その霊能力を用いた献金の奨励・勧誘行為をさせない」という声明を出すに至りました。
霊感商法 初の懲役刑/統一協会の犯罪認定/東京地裁「高度な組織性」
しかしその後も、旧統一教会による被害は続いていました。ではなぜ表立って取り上げられることは減っていたのでしょうか。ここからは、いったん歴史を遡り、旧統一教会と日本政治との関わりについて考えます。
旧統一教会と日本政治との関わり
岸信介氏と旧統一教会
旧統一教会が日本に伝わったのは1950年代後半のことですが、その時に日本の首相だったのが岸信介氏、安倍晋三氏の祖父です。旧統一教会と岸信介氏の間には深い関係があったことが明らかになっています。
ジャーナリストの有田芳生氏によると
などの交流があったと言います。
旧統一教会と岸信介氏の関係は、1968年に設立された反共主義を掲げる政治活動団体「国際勝共連合」によって一層深まっていきます。国際勝共連合は文鮮明氏が創設し、日本での初代会長は旧統一教会の会長だった久保木修己氏が務めましたが、国際勝共連合の創設にも岸信介氏が深く関わりました。宗教社会学が専門の北海道大学大学院の櫻井義秀教授はこのように解説します。
岸信介元首相は1968年、文鮮明氏が立ち上げた「国際勝共連合」の発足に尽力しました。学生運動や左翼運動がもっとも盛んな時期で、保守政権の自民党は、強い危機感を抱いていた。統一教会が共産主義に対抗するフロント団体を作ったことは、自民党にとって渡りに船だったのです。
その後も岸信介氏は文鮮明氏と結び付きを強めます。1974年の文鮮明氏の講演会「希望の日晩餐会」では、岸信介氏が名誉実行委員長となっており、のちの首相である福田赳夫氏が祝辞を述べ、安倍晋太郎氏も参加するなど、多くの政治家が参加しています。
旧統一教会と接近する清和会
岸信介氏以外で旧統一教会と関係を持った政治家とはどのような特徴があったのでしょうか。宗教社会学を専門とする上越教育大の塚田穂高准教授は、
との認識を示しています。
現在の自民党には大きく分けると二つの勢力があります。麻生派・岸田派・谷垣グループの「宏池会」と安倍派とも呼ばれる「清和会」の勢力です。宏池会は吉田茂が率いた自由党の流れを汲み、保守本流とされるグループで、現在の首相である岸田文雄氏も属しています。対して、清和会は日本民主党の反・吉田茂路線を起源に持ち、保守傍流と呼ばれるグループで、安倍晋三氏が属していました。
自民2大勢力、安倍派と「宏池会系」 過半占める主流派: 日本経済新聞
作家・評論家の古谷経衡氏は、自民党内での国際勝共連合の影響力について、このように考察しています。
私が何を言いたいかというと、国際勝共連合が如何に反共親米の色濃い政治団体で、岸を筆頭とする日本の保守政治家とパイプがあったとしても、自民党の全てにいきわたっていたわけではない、ということだ。
戦後の自民党史を俯瞰すると、吉田学校と呼ばれた吉田茂を母体とする政治勢力、これがのちの宏池会や経世会系になるわけだが、これを「保守本流」と呼び、自民党の屋台骨であった。一方、反吉田茂を鮮明にした政治勢力、これがのちの清和会になるわけだが、これを「保守傍流」と呼び、この源流は鳩山一郎、岸信介などである。
自民党とはつまり、概観すると吉田系の宏池会と経世会系、反吉田系(鳩山系)の清和会というふたつ(或いは三つ)の巨大勢力から成立している。なぜか。そもそも自民党はこの異なる勢力が合併して成立したのだから当たり前である。この二者の合併を「保守合流」と呼ぶ。政策的な違いは、吉田系が「ハト派的、護憲的、親米、アジア外交、大きな政府」、鳩山系が「タカ派的、改憲的、親米、反共、小さな政府」である。本当はもっと細かいが、物凄く大きくまとめるとこうなる。そして国際勝共連合が影響を持ったのは後者の鳩山系、つまりは岸と、のちの清和会である。なぜなら清和会は反共親米タカ派であり、国際勝共連合もまた反共親米タカ派だからである。そして最終的にはアメリカの極東戦略、つまり反ソ政策(反共)に影響されていたのである。
旧統一教会の「広告塔」であり「警察への抑止力」になった政治家たち
文鮮明氏と岸信介氏が握手をする写真をはじめ、文鮮明氏が政治家と親しくする様子は旧統一教会の布教活動に大きく「利用」されました。
全国霊感商法対策弁護士連絡会の山口広弁護士は
「文氏と岸元首相が握手する写真の存在が、教団の活動を日本に浸透させる上で、大いに手助けになった」
とし、
「霊感商法や違法な勧誘で社会問題化した団体に政治家がエールを送ると、警察が手を出しにくくなり、被害を拡大させる」
と指摘しています。
【解説】“統一教会”と安倍元首相の祖父・岸信介氏の関係は? 元信者が語る“脱会の難しさ”(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース
旧統一教会と自民党、その関係とは? 安倍晋三氏との距離感の変化は:東京新聞 TOKYO Web
また、元信者の女性はチューリップテレビの取材でこう答えています。
「信者に影響を与えるようなことをなぜするのかなという。信者の人たちはみんなモニター越しに(政治家を)見ますよね。やっぱりそれで安心ていうか『自分のやってることが間違いじゃない』っていうことを確信すると言いますかね。『日本はこういうふうに動いてるんだ』っていうのを、(確信)すると、さらに献金しなくちゃって思いになると思いますね」
安倍晋三氏と旧統一教会
1980年代から1990年代、清和会が非主流派になり、安倍晋三氏の父である安倍晋太郎氏も1991年に病に倒れたことで、清和会および国際勝共連合は苦しい時代を迎えることになります。ちょうどその頃にかけて旧統一教会のメディアからのバッシングが多くなったのは、清和会の後ろ盾が弱くなったことも影響しているように感じます。
2000年に森喜朗氏が清和会から久々に総裁となると、その後、小泉純一郎氏・安倍晋三氏・福田康夫氏と清和会の会員が続けて総裁となりました。しかし、旧統一教会が存在感を増したのは、2度の政権交代で自民党が政権を奪還した後、2012年12月に安倍晋三氏が内閣総理大臣に再び就任した後になります。
2021年9月に安倍晋三氏が「天宙平和連合(UPF)」の集会にビデオメッセージを寄せたことが大きな話題となっていますが、それ以前の首相在任時から、「国際勝共連合」の月刊誌『世界思想』の表紙に安倍晋三氏の写真が何度か使われています。
旧統一教会の名称変更
旧統一教会が現在の正式名称である「世界平和統一家庭連合」に改名したのは1994年のことで、世界各国でも1997年以降に名称変更の申請を順次行いましたが、日本で宗教法人名を管轄している文化庁からは名称変更を認められませんでした。霊感商法を行う団体として世間の注目を集めている教団であり、被害拡大防止のために名称変更を認められないというのが理由でした。
1997年に文化庁宗務課長だった前川喜平氏も、当時名称変更を却下したことをTwitterで明かしています。
1997年に僕が文化庁宗務課長だったとき、統一教会が名称変更を求めて来た。実体が変わらないのに、名称を変えることはできない、と言って断った。 https://t.co/8QHtlDhc5w
— 前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民) (@brahmslover) 2020年12月1日
しかし、第二次安倍政権下の2015年になって名称変更が認証されました。申請を認証した当時、文化庁を外局とする文科省の大臣を務めていたのは下村博文氏で、彼は清和会の所属で安倍氏と非常に近しい関係にあります。また下村氏は旧統一教会系メディアである世界日報社から献金を受け取り、世界日報社が発行する新聞「世界日報」や月刊誌「VIEWPOINT」にもたびたび登場しています。
旧統一教会から選挙協力を得た候補者たち
さて、安倍晋三氏にとっては、祖父の岸信介氏から旧統一教会には深い関係があるとはいえ、どうして旧統一教会と他の政治家が関係を持たなければならなかったのでしょうか。
やや日刊カルト新聞主筆で宗教と政治問題に詳しい鈴木エイト氏は、安倍氏と旧統一教会との関係について、
「組織票に加え、秘書や選挙の運動員などの人員を提供してくれる旧統一教会は有用な存在だった」。
と指摘します。
旧統一教会と自民党、その関係とは? 安倍晋三氏との距離感の変化は:東京新聞 TOKYO Web
鈴木エイト氏はプレジデントオンラインの記事ではこのように書いています。
2013年7月の参院選において、統一教会が全国の信者へ出した「通達」の中には、祖父・岸信介氏の恩人の孫で、安倍晋三氏肝いりの候補者への「後援」を「首相からじきじき」に「依頼」された旨の記述がある。
実際、当該候補は、教団の支援を受け、13年の参院選において当選している。
以降、教団やフロント団体のイベントに、安倍氏の側近を含む、多数の自民党国会議員の来賓が確認されている。
2016年に、UPFが創設した「世界平和国会議員連合」の日本創設式典には、当時の閣僚5人を含む、100名以上の国会議員(代理出席の秘書含む)が出席している。
また、統一教会と関係の深い議員が多数、閣僚や副大臣などに登用されている。
また、教団2世信者組織による安倍政権支持を訴える街宣活動が全国で行われたほか、複数の教団幹部が秘密裏に首相官邸へ招待されていたことも明らかとなっている。
この時、旧統一教会から支援されたのは清和会会員の北村経夫氏です。
また、今回の2022年7月参院選でも、自民党所属で清和会準会員の井上義行氏が参院選の期間中に旧統一教会の友好団体である「世界平和連合(FWP)」主催の集会に参加し、集会の中で幹部が「井上先生はもうすでに食口(シック、信者)になりました。必ず私たちの手で井上先生を当選に送ってまいりましょう」と発言があり、旧統一教会から選挙運動の協力を得ていたことがフリージャーナリスト横田一氏によって報道されています。(井上氏は、「信者」ではなく「賛同会員」になったと報道内容を一部否定していますが、選挙応援を受けたことは認めています。)
政治と統一教会、そして関連団体の関係は? 参院選で支援受け「当選」した自民党議員も。井上義行氏が見解
選挙のためだけでなく、出世のために旧統一教会と協力
しかし候補者たちは、選挙で当選するためだけに、旧統一教会と協力関係を結んだわけではありません。山口広弁護士は、第二次安倍政権誕生後の“ある変化”について、全国霊感商法対策弁護士連絡会の記者会見でこう語っています。
「これは本当に憂うべき事態だと思ったのは、安倍政権になってから、若手の政治家が統一教会の様々なイベントに平気で出席するようになりました。それまでは、政治家が参加しても名前は出さないとか、あるいは統一教会の方も名前を伏せて、政治家の二人が、衆議院議員が参加してコメントしたというようなことを言ってくれましたけども、最近は、若手の政治家はそういうところに大手を振って参加してコメントをするようになってきたんですね。
それはなぜかと言うとですね、そうやって統一教会と近いということを我々さえも知るようになったその政治家が安倍政権の中では、大臣とか副大臣とかあるいは政務官に登用される傾向が顕著になってきたんですよ。だから自分が大臣なりあるいは政務官に登用されるためには統一教会と仲良くしたら、協力関係にあったほうが早く出世できるんだという、そういう認識がだんだんだんだん浸透し始めたんですよ。
お互いに利用し、利用される関係性
実態として、第二次安倍政権以降、旧統一教会は安倍晋三氏をはじめとする政治家を広告塔として利用し、一部の政治家は旧統一教会の主催するイベントに出席して選挙の際は協力を仰ぎ、それによって統一教会と関係の深い政治家が安倍政権の中で出世する、という流れがあったことは明らかです。
事件当初、「容疑者がネット上などの不確実な情報を鵜呑みにして旧統一教会と安倍氏の関係が深いと『思い込んで』事件を起こした」という報道がなされましたが、ジャーナリストの鈴木エイト氏は、
「単に容疑者の思い込みで片付けるのでなく、安倍氏と旧統一教会の関係を解明しないと、事件の全容はつかめない」
と指摘しています。容疑者が前日に書いたとされる手紙でも、
「本来の敵ではない。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人にすぎません」
と安倍氏のことを記述していますが、旧統一教会がいかに安倍氏を広告塔として利用してきたかを鑑みると、この認識は決して的外れなものと言えないように思われます。これまで上記に記載してきた通り、安倍晋三氏と旧統一教会の関わりは決して浅いものではなく、「思い込み」という言葉で矮小化するべきではないと私は考えます。
安倍首相側近らが続々と統一教会詣での“怪”〈週刊朝日〉 | AERA dot. (アエラドット)
今後について
矮小化せず、真摯に向き合ってほしい
岸信介氏や安倍晋三氏が「広告塔」として旧統一教会の活動にお墨付きを与えてしまっていたことは事実です。第二次安倍政権以降、旧統一教会との結び付きや協力関係が強くなっていたことも事実です。そして、旧統一教会が霊感商法や献金で多くの被害者を出していることも事実です。
「安倍晋三氏と旧統一教会との関係性は薄かった」「様々な団体と繋がりがあってその一部に過ぎない」などと開き直って矮小化するのではなく、今までの行動の過ちを認め、旧統一教会と少しずつ距離を置くことが必要だと私は考えます。また、自民党支持者も旧統一教会との結び付きが党内であったことを積極的に批判すべきと考えます。歴史的背景から見ても、自民党の勢力図から見ても、安倍晋三氏亡き今、岸田首相が中心となり、党全体として旧統一教会と距離を置くことや、警察や国が霊感商法や献金被害への取り締まりを強化することは決して難しくないと思えます。
現役の衆議院議員である船田元氏が旧統一教会との関わりについて謝罪文を出した動きに、多くの政治家や自民党支持者にも続いていってほしいと思います。
船田元議員が謝罪文を公表=電報が出された経緯等を具体的に明らかにしたうえでの速やかな謝罪、敬服します。今後の自民党消費者問題調査会長として霊感商法対策など抜本的に統一教会問題を解決する処方箋を自民党内で取りまとめるご努力に期待します。被害者が浮かばれます。 https://t.co/aiSQLg4isU pic.twitter.com/eub6qZKeAv
— 紀藤正樹 MasakiKito (@masaki_kito) 2022年7月18日
自民党以外の政治家もカルト宗教との関係を絶つと宣言してほしい
旧統一教会と関係性を持っていると報じられているのは自民党議員だけではありません。野党でも立憲民主党6人、日本維新の会5人、国民民主党2人、参政党1人の国会議員が関わりを持っているのだと、やや日刊カルト新聞が指摘しています。
【お詫び】 #安倍晋三 氏の事件と #統一教会 との関係で、この表がだいぶ広範囲に出回ってしまっていますが、チェック作業を進めたところミスがありました。自民党所属議員の数が少なく計上されていました。自民党の皆様には、大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。修正版はこちらです。 https://t.co/WHnK30m6Go pic.twitter.com/450nEwiyRq
— 藤倉善郎@やや日刊カルト新聞 (@SuspendedNyorai) 2022年7月15日
もちろん、このリストに入っている=旧統一教会を支持しているとは言い難い部分があります。衆議院議員で日本維新の会の足立康史氏は、自民党時代に世界戦略総合研究所の会合で講演を行っていましたが、この世界戦略総合研究所も旧統一教会系の団体です。
この件に関して足立氏は
「関連団体とは存じ上げませんでした。不注意でした。二度と接点を持つことはありません」
とツイートしています。
講演したことがありましたが、関連団体とは存じ上げませんでした。不注意でした。二度と接点を持つことはありません。 https://t.co/iKyOgAdWVG
— 足立康史 衆議院議員 (@adachiyasushi) 2022年7月12日
また、元衆議院議員の宮崎謙介氏もAbemaTVの番組の中で、「世界平和連合」という団体が旧統一教会の関連団体と知らずに、団体と関係があったことを認めています。
宮崎謙介氏が旧統一教会とのつながり認める「『世界平和連合の方々』と紹介を受けてた」(東スポWeb) - Yahoo!ニュース
この「旧統一教会の関連団体とは知らなかった」ということをどこまで信じるかは別として、旧統一教会には多くの関連団体があり、反共・改憲・夫婦別姓反対・同性婚反対などの主張との親和性から、関係を持ってしまっていたこともあるかもしれません。
そうであるならば、今後は一切の付き合いを絶てば良い話ですし、与野党問わず多くの政治家から、「今後カルト宗教とは関係を持たない」という宣言を聞きたいところです。
我々有権者はどうあるべきか
最後に、我々有権者はどうあるべきか、ということを考えたいと思います。
まず、旧統一教会などの反社会的なカルト宗教を詳しく知らなかった自分のような人たちは、それらの実態が何であるかを陰謀論に陥らないように掴み、もし社会的に問題のある団体と政治家との繋がりが見られたのであれば、厳しく追及していくことが肝要です。
「今回の選挙でもこの団体の支援を受けている候補者がいる。この事件を機に関係を改める必要があるし、国民もメディアも関心を持って一人一人の政治家をチェックする必要がある」
と述べました。
今回の件は、日本の政治にどれほどまでに宗教団体が入り込んでいるかを再認識する機会になりました。自民党を支持する神道政治連盟と日本会議、近年は立憲民主党を支持することの多い立正佼成会など、多くの宗教団体がそれぞれの政党の候補者を支持しています。もちろん、創価学会が支持母体である公明党の存在もあります。宗教と政治、宗教団体と選挙の関係性はこれからも続いていくことでしょう。そのこと自体に関しては決して悪とは言えません。宗教団体=すべて悪とするのもまた、過度な言説であると思います。
旧統一教会が問題なのは、宗教団体だったからではなく、霊感商法や献金などで多くの被害者を出し続けているからです。だからこそ、他の団体についても詳しく知り、政治家と反社会的な勢力や悪質な団体との結び付きがあれば、厳しく糾弾すべきです。
また、安倍元首相をはじめとする個々の政治家たちが旧統一教会の「信者」だったとは言えず、旧統一教会との結び付きも人によって濃淡があったことは確かです。安易に「自民党は旧統一教会とズブズブ」「自民党=旧統一教会」だとか、事実誤認に繋がるような雑なレッテルを張る行為は、かえって問題の解決から遠ざかってしまうので、こちらも避けたいと思っています。全てを旧統一教会のせいにするのではなく、他の影響がなかったかどうかをしっかりと見極めていく必要があります。
衆議院の解散がなければ、次回の大規模な国政選挙は2025年まで待たねばなりません。それまでに、政党がどう変わっているか(もしくは変わらないか)をしっかりと見ておくことが大事です。一過性のバッシング・キャンペーンに終始せず、どの政党の支持者でも無党派層でも関係なく、継続して政治に関心を持ち続けていくことこそが、今の我々に一番必要なことではないでしょうか。