銘々と実損

書かなくていい、そんなこと。

このアルバムばかり聴いてました BEST ALBUM 2017(JPN)

BEST ALBUM 2017(JPN)

年の瀬なのでこの一年聴いていた音楽を個人的にまとめたいと思います。今年は主にApple Musicを使っていたので、配信されているものについては割と手広く聴けたかなと思います。とはいえ日本だけでも聴き切れない数のアルバムがリリースされています。当然、全てを聴けるわけがありませんので、自分で何度も聴いて、個人的に好きだったものだけをランキングに入れています。今回は邦楽のみです。

ルールは「音楽だいすきクラブ」様に準拠します。自分が聴いていないアルバムについてはこちらで知ることが多いです。毎年楽しみにしています。集計お疲れ様です!

1位 PUNPEE/MODERN TIMES

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多くのファンが待ち焦がれたPUNPEEの1stアルバム。客演でのヒット作は使わず、過去のミックスCDの収録曲からの再登板も最小限に抑え、ほとんどが新曲。アートワーク、楽曲の細部にまで彼が愛する映画やSF、アメコミなどの要素が盛り込まれていて、40年後のPUNPEEが自分語りをするというアイデアも含め、PUNPEE節が満載のアルバムに。優秀なトラックメーカーでもあるPUNPEEだが、今回はビート提供された曲も多く、クレジットを見てその豪華さに驚く。代表作『Renaissance』がすっかり馴染むほどにクオリティの高い楽曲群の中、PSGが久々に結集した『Stray Bullets』やRAU DEFが「ダメとかないじゃん普通」と言いながら乱入してくる『Bitch Planet』などのコラボ曲も抜群に良いのだが、曲単体ではなくアルバム通して聴きたい名盤。今年一番聴いたアルバム。

オススメ曲 『Scinario(Film)』

僕の仕事は休日も平日 だからか 君に会う日が休日 だから君自体が休日

PUNPEE、カッコ良すぎる。

2位 Yogee New Waves/WAVES

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2年8か月ぶりとなるYogee New Wavesの2ndアルバム。前作『PARAISO』によりシティポップブームの旗頭となったYogeeだが、リリース間隔が空いた時期はメンバーが固定できずに苦しんだ。盟友のSuchmosやnever young beachの活躍を横目に、もどかしい思いをしていたかもしれない。新メンバーが加入し、やっと届けられたフルアルバムは、これまでの鬱憤を晴らすような快作だ。全体的に温度がグッと上がっており、バンドの充実度が表れている様に思う。「ここからまた始まる予感」を高らかに歌い上げる『Understand』は新生Yogeeのアンセムとなり得る名曲。『World is Mine』では「世界は誰にも渡せない」と宣言する力強さが胸に響く。軽快な曲が多い中、『C.A.M.P』『HOW DO YOU FEEL?』などでは持ち前のロマンチックな世界観も健在だ。

オススメ曲『HOW DO YOU FEEL?』

息を吐くほど 年をとるほど 君を知っていくんでしょう

Yogee New Wavesと共に年を取りたいと感じさせてくれる曲。この時代にYogee New Wavesがいて良かったと強く思う。

3位 For Tracy Hyde/he(r)art

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For Tracy Hydeの約11か月ぶりの2ndアルバム。とにかくeurekaの歌が格段に良くなった!前作まではどうしても歌の不安定さが目立ってしまっていたが、ついにFor Tracy Hydeが音楽オタク以外にもオススメできるバンドになったなという印象。17曲という大ボリューム(うち4曲はインスト)ながら、捨て曲が全くなく、全てがアルバムの重要な構成要素になっている面も素晴らしい。アルバムのテーマは「東京」。「街並みはあなたの日々にそっと音楽を添えている。」と『Echo Park』で歌っているように、まさしく煌めくネオン街を想起できる、ドリーミーながらきっちりと生活に根差した上質なポップミュージック。

オススメ曲『Leica Daydream』

映画のような壮大さを持つこのアルバムにおいて、第一幕のラストを飾るような名曲。ライカ(Leica)とはもちろんカメラのこと。

「好きな花を選び取っても、そこに永遠はないの」と笑う、

そんな君を永遠にしたくて、僕はファインダーの向こうを覗いて見るよ。

世界観を爽やかに積み上げて、美しく大サビで爆発させる。見事。

4位 indigo la End/Crying End Roll

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indigo la Endは日本でも稀有なバンドだ。サビのキャッチーさとマニアックな音楽性をこれほど高いレベルで「両立」できるバンドは他にほぼいないだろう。後者があまり評価されていない、と本人たちがインタビューで話しているが、実際にはリスナーがその音楽性を咀嚼できるまでの高い音楽リテラシーを有していないだけのように思う。自分もどこがどう凄いのかを音楽的にすべて享受できる知識はまるでない。しかし、それでもindigo la Endが好きだ。わかる人にはわかる技術、ではなく、どんな人でも聴けばすぐに傑出した音楽を鳴らしているのが実感できるほど、『Crying End Roll』の各楽曲は凄まじい。かつてindigoのアイデンティティになるほど素晴らしかった長田のギターが目立たなくても良いくらいに、後鳥のベースや佐藤のドラムが新たな核になっている。「ゲスの極み乙女。」でも活躍する佐々木みおとえつこのコーラス、キーボードも今まで以上に使い、全ての活動をindigo la Endに生かそうとする川谷絵音の才能は留まることを知らない。

オススメ曲『鐘泣く命』

ザ・indigoな長田のギターフレーズが印象的なこの曲だが、曲全体を引っ張る佐藤のドラミングが主役と言ってもいいくらいの存在感を発揮している。キャッチーな曲では恋愛に関する物語を描くことが多い川谷だが、シリアスな歌詞でも歌メロに乗せられることを証明。indigo la Endはこの曲によってさらに次のステージへ進んだ印象がある。

5位 OKAMOTO’S/NO MORE MUSIC

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もう音楽はいらない。2010年代を邦楽ロックシーンのトップランナーとして駆け抜けてきたOKAMOTO’Sの7枚目のアルバムは、彼らが積み重ねてきたキャリアが反映された一作となった。代名詞だったBPMの速いロックナンバーは少なくなり、26歳になった彼らの等身大の姿がそこにはある。数曲のデモを繋ぎ合わせて作ったという『90's TOKYO BOYS』は現在の日本の音楽のトレンドをも射貫ける完成度だ。OKAMOTO’Sのルーツを逸脱することなく、まさに彼ららしい音作りで様々な音楽を取り込んでいく姿勢により、ますます生々しく、音楽家としての矜持が感じられる名盤。そのこだわりの強さは、ニューヨークで数曲レコーディングする予定が、自分たちの作りたいものと微妙に違っていたために1曲も録らず帰国した、というエピソードがあるほど。

オススメ曲『NO MORE MUSIC』

シリアスな雰囲気の曲が並ぶ中、表題曲であるこの曲はABBAを意識したというポップな仕上がり。しかし、英語詞には強いメッセージが込められており、ミュージックビデオは異常にスタイリッシュな出来映え。

6位 tofubeats/FANTASY CLUB

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歌うtofubeatspost-truthの時代の到来に危機感を覚える彼による「わからない」「何かあるようで何も無い」というフレーズ。パーソナルな感情の乗ったこのアルバムは、ある意味ではとても深刻で重大なメッセージ性を持っているように思う。たとえば、『SHOPPINGMALL(FOR FANTASY CLUB)』や『CHANT #1』などで吐露される感情は、彼が楽曲の中では見せなかった一面である。しかし、彼は同時に優秀なポップ・ミュージックの作り手でもある。いつものような豪華なゲストがいなくとも、『WHAT YOU GOT』『BABY』のようなキラーチューンを生み出すことができる。そして、YOUNG JUJUを迎えた『LONELY NIGHTS』の完成度は言うまでもないが、『THIS CITY』『OPEN YOUR HEART』で炸裂するインストゥルメンタル曲の爆発力も見逃せない。

オススメ曲『WHAT YOU GOT』

このサウンドにしっかりと歌が乗ることがまず凄い。1本8000円の映像素材を3本買ってtofubeats自身で編集したという視聴動画が相当面白くて何度も見た。「テン、テテテテン、テテテテン、みたいなメロは自分の声をサンプラーにぶち込んだもの」だそうで、それを知ってからその部分もひたすら面白くなってしまった。

7位 アイドルネッサンス/前髪がゆれる

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アイドルネッサンスは2014年に結成され、ここまで6枚のシングルと1枚のフルアルバムをリリースしてきた。「古今の名曲を独自の歌とダンスで表現する“名曲ルネッサンス”」をコンセプトに、持ち歌はすべてカバー曲。これまでカバーしてきた持ち歌は全74曲に達する。そんな彼女たちがついに、オリジナル曲をリリースした。手掛けたのはBase Ball Bear小出祐介だ。自身のアルバムリリースと並行して、アイドルソングとしては非常に強度のある、決して錆び付かない傑作を4曲も生み出した小出のソングライターとしての能力の高さと、名曲ルネッサンスで磨かれた表現力を存分に発揮するアイドルネッサンスの8人の組み合わせは、ヒャダイン×ももクロ、浅野尚志×しゃちほこといった黄金コンビに勝るとも劣らないポテンシャルを秘めている。『前髪』『交感ノート』はどちらも今年のベストソング候補。それにしても小出の本気度がすごい。ナタリーのインタビューは必見。

アイドルネッサンス×小出祐介(Base Ball Bear)「前髪がゆれる」対談 (1/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

オススメ曲『交感ノート』

小出の得意な青春描写が炸裂。踏切で遮断機が上がるまでのほんの数十秒間を女の子と男の子の立場から描く淡すぎる物語。ギターを抜き、打ち込み中心のサウンドで歌を際立たせるアレンジも見事。

8位 シャムキャッツ/Friends Again

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言葉や手数を削ぎ落とし、同じ色のシャツを着た。夏目は全編でアコギを手にし、菅原もギターを重ねない。こうして作られたシャムキャッツの『Friends Again』は、曲の半分近くをギターの菅原が作って歌っているという驚きも含めて、新たなシャムキャッツの可能性を見いだすことのできるアルバムだ。とはいえ決してバンドが大きく変化するような革新的な取り組みをしているということではない。極めて丁寧に、歌と演奏と言葉を研ぎ澄ませている。成長というより、成熟と呼ぶべきだ。やんちゃな印象があった夏目のボーカルは随分とおとなしくなったが、その優しい歌声がこの作品に見事にハマっている。

オススメ曲『Hope

彼らの地元である浦安団地は液状化現象に苦しんでいる。そのことに彼らがかなり心を痛めていることを理解した上で、「あいつが歌うと沈む故郷くらい 大したことないじゃんって思えるから不思議さ」というラインが「希望」の名を持つこの曲で歌われている意味を考えてしまう。

9位 MONO NO AWARE/人生、山おり谷おり

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MONO NO AWAREのファーストアルバム。洋・邦問わず、彼らが好きな音楽をどんどん拝借、咀嚼して組み合わせる絶妙な楽曲が癖になる。たとえば『イワンコッチャナイ』で印象的なフレーズはThe Virginsの『Rich Girls』から流用したもの。『井戸育ち』でもDeath Cab for Cutieの『You Are A Tourist』からギターソロを拝借。他にも、PhoenixArctic MonkeysThe Strokesなどの影響も公言している。八丈島出身でRADWIMPSを神と崇めながら音楽に目覚めたという、まさしく現代っ子なボーカル玉置の巧みな言葉遊びがバンドのアイデンティティを担う。玉置は文章も面白いので、人気上昇につれて連載の仕事も増えるはず。Tempalay、ドミコらと共に、一気に時代の中心に駆け上がりそうな雰囲気。

『フジロック回想記』 MONO NO AWAREボーカル玉置周啓 | Qetic

オススメ曲『マンマミーヤ!』

言葉遊びのセンスの良さと、唐突な「二段熟カレー」で完璧に心を掴まれた。MVも最高。「咀嚼ネットワーク」は今年一番気に入った言葉のひとつ。

10位 Alfred Beach Sandal+STUTS/ABS+STUTS-EP

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北里彰久のフリーフォームなソロユニットであるAlfred Beach Sandalとトラックメーカー/MPC PlayerであるSTUTSによるコラボ作品。過去にもコラボや共演のあった2人は相性抜群。心地好いビート感が全編を通して続き、朝から夜へとゆっくり進んでいくので、何度もリピート再生したくなる。良い意味でBGMになり得る音楽で、今年の夏はずっとこのアルバムを聴いていた。前半3曲はどちらかというとビート先行、後半3曲はめちゃくちゃメロウな雰囲気でどちらも好き。2作目以降のリリースを期待したくなる。

オススメ曲『The Chase』

アルバムの始まり方がこれほどカッコよく決まれば、成功が約束されたようなもの。文句無しの名曲で、Apple MusicではPUNPEEを除いて今年一番再生した曲。

 

書き終わった感想

音楽に順位なんて付けるものじゃないです。めちゃくちゃ悩みましたし明日には入れ替わると思います。PUNPEEを1位にしたのは、こういうコンセプチュアルでオリジナリティのあるアルバムが大好きだからです。アイドルネッサンスは全曲好きだけど4曲入りのミニアルバムをそこまで高い順位付けられないよな…という気持ちがありました。Yogee New Wavesとシャムキャッツの久々のフルアルバムがどちらも期待を超えてくる出来だったことが本当にうれしい。逆にOKAMOTO’SやFor Tracy Hydeは前作まではそこまで好みじゃないなと思っていたので驚きました。世間的な評価と個人的な好みがあまり噛み合わないことも多いですが、今回はもう完全に人気ど真ん中のランキングになりました。良いものはちゃんと売れている時代。

(たぶん)評価の高いであろうスカートの『20/20』や私立恵比寿中学『エビクラシー』、台風クラブ『初期の台風クラブ』、あたりは未聴です。warbear『warbear』も出て間もないのであんまり聴けてません。好きになったアルバムを何十回と再生してしまうので、アルバム単位で聴ける数がそんなに多くないんですよね。聴きたい洋楽もあるし。聴き込んでない中だときっとCornelius『Mellow Waves』、サニーデイ・サービスPopcorn Ballads』、赤い公園『熱唱サマー』とかがかなり良いんだろうな、と思ってますが、これを聴き込むのは2018年に持ち越しです。その間にもどんどん新譜はリリースされて、これこそオカモトレイジの言う「NO MORE MUSIC」状態じゃん…

来年はきっと小沢健二のアルバムが出ると思うので楽しみです。それに呼応する形でceroがなんらかのリリースをしてくれればいいな。あとはEnjoy Music Clubが出たら完璧の年になります。

次点の作品

達磨林檎』は2016年に出す予定だった作品でしたし、実際に2016年に出せてればな、と思う部分もあります。絶好調時に比べるとちょっとポップの精度が低いんですよね。濁ってるというか。新曲『戦ってしまうよ』は完璧だったのでもう大丈夫だと思います。

  • Maison book girl/image

アイドルなのに10分超のインスト曲が入ったフルアルバム、けどサクライケンタだからな~とほぼ驚きもなく受け入れられているのが凄い。直近のシングル曲を外す部分も含め、中田ヤスタカPerfumeでやりたかったやつじゃん!って思いました。

  • Tempalay/from JAPAN 2

狙ってないカッコ良さ、染み出るカッコ良さがあるバンド。「そんなことするの!?」って思うくらいベタなこともやるので、そういう若さみたいなものも含めて好きです。

  • ベランダ/ANY LUCK TO YOU

しっかり歌を歌うバンドなので、いろんな人に聴いてもらいたいという気持ち。『Let's Summer』『最後のうた』などは去年からずっと聴いていたのでアルバムに入って嬉しいです。

  • MUD/Make U Dirty

KANDYTOWNのトラックメーカーNeetzが好きで、彼のムードのある派手なトラックにソロで一番合うのはKANDYTOWNの中ならMUDだと思います。『No Stucks』超カッコ良い。でも全部日本語でラップした『One Love』は正直好みじゃない。

SOIL&"PIMP"SESSIONSとコラボした1曲目を聴いて、良かった、全然売れようとしてない!と思いました。『SKY's the limit』のMVがあまりにメジャーアーティストだったから…。渋くて濃くて良いアルバム。『朝焼けと熱帯魚』がお気に入り。

  • 集団行動/集団行動

相対性理論を脱退した真部脩一と西浦謙助による新バンド。真部さんが「J-POPの王道を目指す」と言いながら、中身はめちゃくちゃニッチかつ真部節全開で最高。野菜はレタスに限る。

  • 東郷清丸/2兆円

テンテイグループのボーカルの人。全60曲入りのアルバムというインパクトが凄い。この人の声が本当に好きです。ジャケ写もっとどうにかならんかったんかい。

  • 2/VIRGIN

良かったので単独記事にしています。

朝ドラ俳優・ 古舘佑太郎による挫折からの復讐劇 新バンド・2(ツー) - 銘々と実損

  • PELICAN FANCLUB/Home Electronics

なんでこれが売れないの?っていつも思ってます。『Esper』のMVを作ってほしい。切実です。アニメタイアップでもすれば一発で売れると思うんですけど。

椿屋四重奏を解散してからソロになり、既に6作目となるオリジナルアルバム。この人ずっと変わらないな、と思っている。ずっと良い。

Awesome City Tracksシリーズの最終章。このクオリティのミニアルバムを2年で4枚、全28曲もリリースしたのだからすごい。特にTracks4は本当に良かったと思います。『Action!』がお気に入りです。早くフルアルバムが聴きたい。

MY BEST ALBUM 2017(JPN)

1.PUNPEE/MODERN TIMES
2.Yogee New Waves/WAVES
3.For Tracy Hyde/he(r)art
4.indigo la End/Crying End Roll
5.OKAMOTO’S/NO MORE MUSIC
6.tofubeats/FANTASY CLUB
7.アイドルネッサンス/前髪がゆれる
8.シャムキャッツ/Friends Again
9.MONO NO AWARE/人生、山おり谷おり
10.Alfred Beach Sandal+STUTS/ABS+STUTS-EP