銘々と実損

書かなくていい、そんなこと。

ふくろうず、僕たちの青春

ふくろうずは青春そのものでした。
青春に少しでも付き合ってくださったみなさん。
心からありがとうございました。
わたしたちは幸せでした。

ーふくろうずOffcial Websiteより

僕たちの青春が、こよなく愛したバンドが、本当に突然、解散を発表した。ふくろうずは2017年の12月24日の結成10周年ワンマンライブをもって解散した。*1

ふくろうずは昨日、12月24日に解散しました。
突然の発表で悲しい思いをさせた人がいたら本当にごめんなさい。
最後のライブを楽しく終えたかったので、このタイミングでの発表になりました。
わたしたちのワガママを許してください。

ーふくろうずOffcial Websiteより

10年の活動の間には2年間全くCDリリースが無かった時期があり、メンバーの脱退やレーベル移籍*2も経験した。ファンから見ても「危ない」時期は何度もあった。メンバーがブログで「解散しそうでなかなか解散しないバンド」と自虐することもあった。それでもふくろうずは活動を続け、僕たちにとって特別なバンドで在り続けていたのだ。だからこそ、こんな日が急に来るなんて思わなかった。いや、思いたくなかったのかもしれない。*3

ラストライブとなった結成10周年ワンマンライブ「ごめんね、ありがとライブ」では26曲を演奏している。

【ライブレポート】ふくろうず10周年ライブでキャリア総括「一番幸せなクリスマスイブになった」(写真18枚) - 音楽ナタリー

曲順、内容ともに、ふくろうずの集大成的なライブだったことが窺える。この日ドラムを叩いたのは、オリジナルメンバーであり、2011年9月に脱退した高城琢郎だ*4。「ごめんね、ありがとライブ」というタイトルも含め、今考えるとまさしくラストライブ然としたものだ。ライブタイトルに歌詞が引用されている2010年にリリースされた『ごめんね』という代表曲は、アンコールにて2度演奏された。

『ごめんね』

ふくろうずを語るのにこの曲はまず外せない。ボーカル・内田万里の舌足らず気味な歌声は唯一無二の存在感があり、シンプルなサウンドがそれをさらに引き立たせる。独特な歌唱により少々聞き取りづらいが、一番の魅力は内田の書く歌詞だ。扱う題材は主に「恋愛」という普遍的なものだが、熱狂から醒めるほんのわずかな瞬間における人々の機微を丁寧に掬い出す表現に長けている。多くのJ-POPが、恋による熱狂の最中、あるいは恋が完全に終わってしまった(けど諦められない…)状態のどちらかを主に描く中で、嬉しいや悲しいといった単一な形容詞では表せない心象風景を平易な言葉で綴る内田の歌詞は、たとえば恋人の乗った電車を見送って一人で帰るような時において驚くほど胸に響く。

正しいも正しくないも意味はないのさ

君はすてきだ!困った顔がよく似合う

-ふくろうず『ごめんね』

殺してくれ!と叫びだすような恥ずかしい夜は

抱きしめててくれよ、ほんとごめんね

-ふくろうず『ごめんね』

『うららのLa』

2016年にリリースされた『うららのLa』は、内田が綴ってきた「恋愛における機微」のまさに集大成的な名曲である。一聴すると切なく、失恋の歌のようにも聞こえるこの曲だが、I LOVE YOUをまっすぐと叫ぶ、ふくろうずなりの恋愛ソングになっている。

まだ胸は 痛むけれど

つないだ手 信じたい なぜ

-ふくろうず『うららのLa』

心って 不思議だな

なんで 割り切れない やり切れない 全然

それならさ 笑い飛ばしちゃおう

君となら 何度でも

-ふくろうず『うららのLa』

ふくろうずは割り切れない気持ちを肯定する。日常に潜む曖昧さや、やり切れなさを切り捨てない。大衆からの共感と人気を得る大きな要素となる「わかりやすさ」は欠けているかもしれないが*5、だからこそ、聴き込めば聴き込むほど自分に寄り添ってくれる。

この曲でのお気に入りの歌詞はこの部分だ。ずっとこんなことを歌っていたのがふくろうずだと思う。

優しくない 君の 優しさも

本当は 優しいと 分かった

-ふくろうず『うららのLa』

何度でも言う。ふくろうずは特別なバンドだ。夜に街を一人で歩いている時の孤独に寄り添える音楽を作れるバンドだ。でも、それだけではない。それだけじゃないからこそ特別だった。

『ハートビート』 

本当に先程と同じバンドなのか疑わしいほどの振れ幅というか遊び心も、ふくろうずの魅力のひとつだ。

君はサンシャイン 僕のサンシャイン

愛してるヤバいエモーション

君はウィナー 僕フリーター

手が出ない 高いマンション

-ふくろうず『ハートビート』

あれだけ丁寧に恋愛の歌詞を書いていたはずの内田がここでは「愛してるヤバいエモーション」と歌っていて、硬派でかっこよかったベースの安西も「ユアマイサンシャイン、イエー」と言っている。でも、ただふざけているだけではない。こういう遊び心のある曲でも、ふくろうずは手を抜かず、アルバムのリード曲にふさわしい楽曲に仕上げている。

ふくろうずの相談天国

遊び心といえば、Youtubeに数多くアップされた動画コンテンツもまた、ふくろうずの大きな魅力だった。シリーズとして長く続いた「ふくろうずの相談天国」は、ふくろうずの3人のパーソナリティーが良くも悪くも生かされた番組だ。内容としてはシンプルで、ファンから寄せられたお悩みをふくろうずが解決していくというものなのだが、3人ともまったく誠実さがなく、お悩み相談の形を成していない。ファン*6もそれが分かっているので、寄せられるお悩みさえも誠実さをどんどん失っていくなど、絶妙なグダグダさがひたすら続く番組だった。

『ふくろうずの相談天国NEO Vol.2』は、普段はあまり喋らず人見知りなギターの石井の不思議な魅力が詰まった神回だ。「母(51)がエステに通い出しました。手遅れだということをそれとなく本人に伝えるにはどうしたらいいですか?」というファンのお悩みに対し、「インコを飼って、テオクレダ、テオクレダと毎日聞かせていると、インコがテオクレダ、テオクレダ、と伝えてくれます」と回答する石井君の愛おしさと恐ろしさ。

「悩みがありません」というファンからの悩みに対して「家でカントリーマアムでも食ってろー!」と切り捨てるボーカル内田は、「マシンガン☆マリ」という、相談にマシンガンの如く答えるコーナーでその才能を爆発させている。「みなさんがスレンダーなのはどうしてですか?」「ストレスです!」

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3人の個性が生きているのは動画コンテンツだけではない。更新頻度が高く自由奔放なブログもふくろうずの魅力だった。「ブログを更新し過ぎて2012年はアルバムが出せなかった」と相談天国で冗談交じりに語っているほどだ。なお、石井君だけはブログをやっていなかった。内田曰く「(石井は)日本語が書けないから」とのこと。

こうして見るとメンバー同士は非常に仲が良かったように思えるが、元々のルーツとなる音楽性は内田と安西・石井とでは大きく異なり、その点がアルバム制作において影響してくる。

ふくろうず、僕たちの青春

2017年にリリースした『びゅーてぃふる』は結果的にふくろうず最後のオリジナルアルバムとなった。このアルバムはサウンド含めあらゆる面で内田の色が濃いアルバムだ。顔入りの場合はメンバー全員の顔が必ず入っていたアルバムジャケットも内田ひとりの顔で、ずっと3人で受けていたナタリーのインタビューも内田のみが受けている。

ふくろうず「びゅーてぃふる」インタビュー|内田万里は音楽に嘘をつかない (1/2) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

はっきり言ってしまえば、ふくろうずはセールス的にあまり振るわなかった。多くの人に曲を届けたいという思いと現実とのギャップは本人たちも自覚していて、過去のインタビューなどでも度々話している。『びゅーてぃふる』で自分の色を強く押し出した理由を内田はこう語った。

やっぱりもうちょっとだけ売れたいなって思ったんですよね。バンドって自分たち以外にもたくさんの人が関わって活動してるものだから、やっぱりある程度は売れてないと続けられないっていう現実があるので。

売れないと続けられない。ではどうしたら売れるのか。どのバンドでもそうだが、ふくろうずもアルバムごとに少しずつ音楽性を変えている。明るい曲を増やしたり、バンド感を前に出したり、逆に全曲打ち込みで作ったり、ボーカルの個性を強く打ち出したり。結果としてどのくらいうまくいったかはわからない。ただ、それが全てだとは思わないけれど、もう少しだけ売れていたら、という気持ちがファンとしてはある。

それでも、ふくろうずは特別なバンドだ。僕たちの青春だ。ひどく泣きたくなるような夕暮れも、暗闇を歩まねばならない時も、最高な気分の隙間にふと切なさが顔を覗かせるパーティーの帰り道も、溢れそうな愛を抱えて駆け出した八月も、愛してるヤバいエモーションな時も、張り裂ける間際の気持ちで迎える夜明けも、ふくろうずが僕たちの傍にいてくれた。ふくろうずが僕たちを見つめてくれた。大袈裟ではなくはっきりと胸を張ってそう言える。

ミュージックビデオが制作されていない楽曲にも名曲が多いので、大好きな曲を列挙する形で紹介させてほしい。灰になる、ループする、カシオペアマシュマロスフィンクスイージーカム・イージーゴー、デイドリーム、ユニコーンGOOD MORNING SONG、スローモーション、もんしろ、砂漠の流刑地、びゅーてぃふる、S・O・S・O・S、デスティニー、優しい人、ユアソングマイアミ、サタデーナイト、たゆたい、夜明け前、マーベラス!、街はいつも雨のよう、ファンタジック:ドラマチック:ララバイ、ピンクエレファントの憂鬱、ボーイミーツガール、春の嵐だめな人、37.3、カノン、すばらしい世界、心震わせてキャラウェイ、夜の淵、ベッドタウン、ムーンライト、春の惑星、通り雨、テレフォンNo.1、見つめてほしい、ガーリーズハイ!、ラジオガール、赤い糸、白いシャトー、光、ソナチネ、エバーグリーン、、、すみません全然絞れません。というか全曲だと思います。ここまで書いて泣きそうになったのでもう締めます。

 

ふくろうずを知った高校生の頃から、もう7年。2010年にデビューして、そこからずっと青春で在り続けてくれて、本当にありがとうございます。これからもずっと聴き続けます。

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ふくろうず Official Website 

 

最後の曲としてふくろうずは「ごめんね」を届けたが、内田は「なんかすごくライブ楽しかったんだけど、最後の曲をやるときにどうやってやろうと悩んでしまって……もう1曲やりたい」とリクエスト。しばらく曲を考えていたがなかなか決まらず、仕切り直すべく「ごめんね」を弾き語りで歌った。その後、4人は向き合って最後の曲を再考し、「エバーグリーン」を披露。歌い終えた内田は3人が演奏する中1人で去っていき、3人も曲を終えると名残惜しそうにステージを下りた。

【ライブレポート】ふくろうず10周年ライブでキャリア総括「一番幸せなクリスマスイブになった」(写真18枚) - 音楽ナタリーより

まだやってないことあったっけな

全部やったしやってないって感じ

-ふくろうず『エバーグリーン』

 これが最後の曲かよ、やり切れないな。

 

 

*1:大ファンだった椿屋四重奏も事後発表だった。好きなバンドの解散を後から知るのは正直辛い。メンバーがその形を望むなら…と思っていても悲しい。

*2:2011年にEPICレコードからメジャーデビューした後、2016年に徳間ジャパンに移籍した。なお、2015年にリリースされた『ベイビーインブルー』のみ、所属事務所であるソニー内のSMALLER RECORDINGSからリリースしているため、その時点でEPICレコードとの契約は切れていた可能性が高い

*3:解散の前兆らしきものはたくさんあった。頻繁に更新していたブログが9月後半から急に途絶えたのもその一つだ。

*4:なお高城は今年リリースされた『びゅーてぃふる』でもドラムをサポートという形で担当し、今年のツアーにも参加した。

*5:たとえば初期の宇多田ヒカルの楽曲はほぼ恋愛のことしか歌っていないが、圧倒的にわかりやすい。『First Love』では「明日の今頃にはあなたはどこにいるんだろう 誰を思っているんだろう」とめちゃくちゃわかりやすくて共感できるBメロ。『Automatic』でも「抱きしめられると君とparadiseにいるみたい」と歌う。悲しいや嬉しいといった感情がはっきりしている。これに本格的なR&Bサウンドが乗ってまだ15歳というギャップ。そりゃ売れる。歌詞のアプローチの違いのために取り上げただけで、宇多田ヒカルも大好きです。

*6:ふくろうずのファンのことをこの番組では「コブクロ」と呼んでいる