銘々と実損

書かなくていい、そんなこと。

macicoというユニット―思春期を終えた2人の、生活を鳴らす音。

誰しもが経験する「思春期」。その終わりは、明確には定義付けされていない。一般的には高校の卒業頃と言われる。
いつの間にか終わってしまうそれを僕らはなかなか捨てられやしない。言語化出来ない感傷に縋り付き、もう来ない放課後の喧騒に似た何かをふと、どこかで思い出して、探して、少しずつ失くして、輪郭が曖昧になった「思春期のようなもの」を追い求めてしまう。

かつて、模倣や後追いではない、「思春期そのもの」を歌うシンガーソングライターがいた。
彼女の名は「日向文(ひなたあや)」。1994年生まれの彼女は、2011年に10代限定音楽イベント「閃光ライオット」にエントリー。震災復興の意味合いも込め仙台で行われた三次審査の会場、Zeep Sendaiで彼女を僕は見た。

彼女の歌は、とても正直だ。
10代特有の感情を隠さず、繕わず、真正面から歌い上げていた。 

2012年に同じく閃光ライオットの三次審査に進んだ「ハチミツシンドローム」というバンドがいた。

BUMP OF CHICKENくるりに影響を受けたというVo&Gの小林斗夢は、同世代に響くフレーズが幾つも散りばめられた歌詞を抜群の声質で歌う、思春期真っ只中の男女のためにあるような歌を作っていた。

2人とも、10代で「閃光ライオット」の存在を知り、これに出場する為に曲を作り始めたという。10代限定の音楽フェスとして始まったこのイベントは間違いなく我々90年代生まれにとって青春であった。


そんな2人が今、「macico」というユニットを組んで活動している。

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日向文としての活動を2015年に終えたayaと、同年に解散したハチミツシンドロームのVo&Gだったtom。

ayaはmacicoのインタビューで、日向文としての活動を終了した理由をこう語った。

日向文でしたいことがなくなっちゃったんです。日向文の歌をずっとこの先も自分の人生の中で歌っていけるとは前から思っていなくて、きっと後々創れなくなるなとは思っていて。日向文の曲って自分の中の思春期の部分で、私、思春期が最近終わったんですよ。

同じインタビューでtomはハチミツシンドロームの解散理由を

自分が創る音楽が自分じゃなくなってしまった

ためだと説明している。

思春期に音楽を始めた音楽家2人が、これまで表現してきた「音楽の中の自分」、もしくは「自分」の中にある「音楽の源」と呼ぶべきものを、20歳を過ぎて失ってしまった。
いや、正しく書くならば、今まで=思春期とは違う「自分」を音楽で表現したくなったのだろう。 

それでは、macicoの音楽を聴いて頂こう。

Wake Me Up!!」は非常に爽やかなポップソング。何度も繰り返されるサビのフレーズが気持ち良い。どこか初期のCymbalsを彷彿とさせるのも個人的にツボ。

「MUSIC」は心の底から音楽を鳴らすことを意識して作ったという、非常に温かみのあるゆったりとした曲である。

他にもSoundCloudで数曲が公開されており、音源も発売されている。いずれも日々の暮らしから生まれる身近な情景や関係性を描いていて、耳馴染みが良い。流行のシティポップよりも、郊外的な、生活に寄り添った印象を受ける。


ヒリヒリするような熱い思春期の温度を持つ音を愛していた、既存のファンが多数存在するのは確かなことだ。しかし、macicoの2人が成長をするように、聴き手もまた成長をしているのである。
思春期を少し抜けた「閃光ライオット世代」に今届けたい、上質なポップスを届ける生活の歌い手。macicoの音は、僕らにずっと寄り添ってくれるはずだ。