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広島の完成度の高さと、G大阪の底知れぬ潜在能力ーFUJI XEROX SUPER CUPサンフレッチェ広島VSガンバ大阪 レビュー

明治安田生命Jリーグの開幕を1週間前に控えた2月20日、今年もFUJI XEROX SUPER CUPが開催された。1994年から毎年行われる、前年度のJ1リーグ年間優勝チームと天皇杯優勝チームが対戦する公式戦である。

今年の対戦カードは、前年度J1を制したサンフレッチェ広島と、天皇杯を制したガンバ大阪。昨年のチャンピオンシップ決勝と同じ組み合わせとなった。

 

まずは昨年のチーム成績を振り返る。

広島はシーズン34試合制となった2005年以降で最多の勝ち点を記録し、チャンピオンシップでもG大阪に1勝1分けして、リーグチャンピオンの座を獲得した。その後出場したFIFAクラブワールドカップ2015でも3位決定戦で広州恒大に逆転勝ち。無冠に終わった2014年の雪辱を果たす、最高のシーズンを送った。

G大阪は年始のFUJI XEROX SUPER CUPで浦和に勝利すると、アジアチャンピオンズリーグでも日本勢で唯一ベスト4に進出した。さらにナビスコカップでも準優勝、J1では3位でチャンピオンシップ出場を決め、天皇杯では2年連続の優勝と、様々な大会で好成績を収めた。 

そして昨年、この2チームは2015年の公式戦で5度対戦している。リーグでは広島の1勝1敗、チャンピオンシップでは広島の1勝1分、そして天皇杯の準決勝でG大阪が勝利しているため、対戦成績は2勝1分2敗と全くの互角である。

 

スターティングメンバーを見ていこう。

広島

GK 林卓人

DF 塩谷司 千葉和彦 佐々木翔

MF 青山敏弘 森崎和幸 ミキッチ 柏好文 茶島雄介 柴崎晃誠

FW 佐藤寿人

広島は昨年リーグで21得点(チーム総得点は73)を挙げたドウグラスが退団。代わりに清水で9点を決めたピーター・ウタカを獲得し、この試合ではベンチに入っている。不動の左センターバックであった水本の定位置を佐々木翔が奪い、昨年J1では3試合のみの出場ながらクラブワールドカップで活躍を見せた茶島がスタメンに抜擢されている。ベンチには五輪代表候補の浅野拓磨が控える。京都から新加入の宮吉拓実や山形から新加入のキムボムヨンはメンバー外となった。

 

G大阪

GK 東口順昭

DF 藤春廣輝 丹羽大輝 今野泰幸 オジェソク

MF 遠藤保仁 アデミウソン 阿部浩之 井手口陽介 宇佐美貴史

FW パトリック

主力の流出がほとんど無かったG大阪は、横浜Mからアデミウソンと藤本淳吾を獲得した。両者は今季から使用する新本拠地の市立吹田サッカースタジアムでのこけら落としとなった先週の「Panasonic Cup」名古屋戦で早速先発し、共にゴールに絡んでいる。彼らの主戦場である攻撃的MFは、阿部浩之宇佐美貴史大森晃太郎倉田秋二川孝広、堂安律など実力のある選手がひしめく超激戦区となった。怪我人続出のセンターバックには本来ボランチ今野泰幸が入り、空いたボランチには19歳の井手口が入っている。

 

【前半】

前半は静かな立ち上がりとなった。要因としては、広島がG大阪のスピード溢れるカウンター及び中央突破を警戒して、プレスの開始位置を低めに設定したこと、両チーム共に今日を含めて1か月で8試合をこなす過密スケジュールのため消耗を避けたこと、強い雨が降っていたことなどが挙げられる。決定的なシーンはほとんど無かった。

広島は右サイドのミキッチにボールを集める得意の形で攻め入ったが、なかなか佐藤寿人に鋭い動き出しが見られず、よってボールも入って来ない。対してG大阪は、低い広島のラインに苦しみ、後ろでボールを回す時間帯が多く、アデミウソンや宇佐美も前を向いてボールを受ける機会が少なかった。

 

【後半】

序盤は動きが少なかったが、佐藤寿人の一瞬の動き出しが試合を動かす。後半6分に塩谷の右サイドからのクロスに佐藤がニアサイドで滑り込みつつ合わせて先制。守る今野の背後から飛び込む、佐藤寿人らしいゴールだった。その後、丹羽がペナルティーエリア内でハンドの反則を犯したとしてPKを献上。佐藤に代わって入った浅野拓磨が豪快に蹴り込んで2-0になる。その後、G大阪はパトリック・アデミウソンを下げて倉田秋長沢駿を投入すると、前半の細かなパスを中心とした攻めから、ロングボールを使い長沢や宇佐美へ放り込む戦術を採用。最初こそ長沢の判断ミスが目立ち攻撃の形が作れなかったが、後半23分に阿部の右クロスに宇佐美がダイビングヘッドで合わせて1点を返す。こちらもDFの背後を突いたストライカーらしい動き出しからのゴールだった。失点直後に広島はピーター・ウタカを投入。いきなり中央から強烈なシュートを見せると、得たコーナーキックの流れから見事なボレーシュートをゴールに叩き込み試合を決めた。

【戦評】

両チーム共に戦力の入れ替えを最小限に留めているため、既存戦力の底上げが重要になる。その点で、広島はドウグラスの退団を見据え昨年のクラブワールドカップで起用していた茶島雄介の成長が非常に心強い。積極的にボールを受け、前を向いて攻撃にアクセントを付けられる選手である。今後はミキッチとのコンビネーションを強化し、右サイドでさらなる怖さを生み出してほしい。今日唯一の新加入選手だったピーター・ウタカは短い時間で抜群のパフォーマンスを見せ、スーパーサブ浅野も健在。基本的には昨年と変わらず、堅い守りから一瞬の隙を突く試合巧者ぶりを今年も見せてくれそうな、そんな戦いぶりであった。

G大阪はアデミウソンをどう生かすかという点で、先週の名古屋戦で見せたカウンターを封じられてしまい、その後の崩しに課題を残した。丹羽のハンドの判定は非常に不運であったが、今野・丹羽のコンビがクロス対応に若干の不安があったのは確かである。しかし課題だけではない。井手口陽介は今年のベストヤングプレーヤー候補であろう。対人守備のクオリティの高さを見せつけた。彼の精力的なプレスに連動し、前線からの守備が出来れば、リーグ屈指の攻撃陣がさらに生きてくる。問題は遠藤・今野の両ボランチの牙城を崩せるかどうかになるのだが、今野がセンターバックを務める場合は、岩下や金正也などの長身CBを起用出来ない。攻撃的中盤も多くの組み合わせを試していたが、豊富な戦力をどう組み合わせて戦い、そしてどう勝つか。長谷川監督の手腕が試される。

 

【総論】

広島

過密日程で戦い抜くためには、茶島を含む選手の台頭が不可欠である。ピーター・ウタカはドウグラスの穴を埋める大きな武器になることは証明されたが、年齢や怪我の多さを考えると彼に依存は出来ない。出場の無かった宮吉拓実野津田岳人などがどう貢献できるか。サイドでもミキッチが年齢的にフル稼働は厳しい。昨年無かった主力の長期離脱が今年も起きない保証はない。その中で水本から定位置を奪いかけている佐々木翔を始め、丸谷拓也宮原和也、皆川佑介、清水航平などがどれだけ活躍できるかが連覇への鍵である。

基本戦術はほとんど変わらない。サイドからの攻撃を中心にしつつ、隙あらば中央の縦パスで敵の急所を突く攻撃は完成形に近い。しかし2014年以降、大エース佐藤寿人は全盛期ほどの得点力を有していないことを考えると、浅野拓磨やピーター・ウタカ、柴崎晃誠がどれだけ試合を決めるゴールを決められるかが(昨年はリーグ最多得点だったものの、大量得点での勝利が多く、無得点の試合が9試合もあった)課題になってくる。

 

G大阪

何度も触れたように、豊富な攻撃陣をどう組み合わせるかがポイントである。アデミウソンや藤本の実力は横浜Mでも証明されているが、阿部や倉田や大森のプレーもチームには欠かせないものである。チャンピオンシップでスタメンを確保した長沢もおり、過密日程の中で調子のいい選手や最良の組み合わせを見つけ出せるか。そしてその組み合わせの中にアデミウソンやパトリック、宇佐美貴史が入れば、誰にも止められない最強の攻撃陣が完成するかもしれない。

手薄な守備陣は不安が多い。2年連続で全試合に出場した不動の守護神・東口順昭は元々怪我の多い選手だが、バックアッパーは事実上藤ヶ谷陽介しかいない。DF陣も怪我人が出ており、先週はルーキーの初瀬亮を先発させるなど厳しい状況だ。今日も結果的に3失点したが、攻撃的なサイドバックの裏を攻め入られたり、今野が釣り出されたスペースを使われたりしてピンチを招いている。前への意識が強いチームであるからこそ、サイドからのクロス対応やセットプレーでの守備の部分を強化しなければ、リーグ王者奪還は遠いものなるだろう。